- 「好きなことをすべきだ」とアドバイスする人
- 「今の仕事が好き」と満足気に働く人
こんな他人を見聞きしていると、自分は好きな仕事ができていないから不遇の人生を送っているんじゃないかという考えにさいなまれます。
しかし、気にすることはありません。
転職にあたっても転職先選びで無理に自分にとって最高の「天職」を探そうとする必要はありません。
「好きなことを仕事にしないと」という天職でなければダメだ恐怖症は、自分の選択肢を狭めます。
本記事における「やりたい仕事じゃないとだめか?」という問いに対する答えの要約はこうです。
- やりたい仕事、好きな仕事があると無理に思い込むな
- やりたくない仕事、嫌いな仕事を避け、残りの仕事の選択肢の中から外部環境を考慮して決定せよ
私は「これがやりたい!」と思って転職したことはありませんが、転職のたびに職場満足度は上がっています。
やりたい仕事を無理に考えてたら転職はできず辛い職場に留まって苦しい思いをしていたはずです。
1 天職は見つかるという思い込み
自分の頭の奥底に「きっと自分のやりたいことや向いている仕事があるはずだ」と期待してはいけません。
しばらく考えて思い浮かばないならおそらくそんなアイデアは自分の中にないはずです。ないものは出てきません。
(1) 思い込みを天職と勘違いする
考えに考え抜いて「これが天職だ!」と思い浮かんだら、それはただの思い込みです。
あるとき「自分探し」というものが流行った。本当の自分を見つけるために旅に出る若者も多かった。自分のやりたいことが見つからない、今の自分は本当の自分とは違う、人生の目標が見つからない。こういった悩みを抱える者は、転職を重ねたり、お金に余裕のある人は世界中を旅してまわったりする。
しかし「本当の自分」というものはない。思い込みである。(※下線部は本ブログ管理人が引いたもの。)
鈴木敏昭『人生の99%は思い込み―――支配された人生から脱却するための心理学』(ダイヤモンド社、2015年)102ページ
自分が心の底から充実感を味わえる仕事があるはずだ!本当の自分を見つけさえすれば…!と自分にむやみに期待をかけるのは自分を苦しめます。
「本当の自分」なんていうものはありません。
「本当の自分」や「本当の自分に最高に適した仕事」があるはずと思いこんでそれがないのは苦痛です。
「やりたい仕事」という答えを自分は持っていないことを認識すべきです。
(2) 天職をでっちあげる
無理に「あるはずだ!言え!吐くんだ!」というのは無理な取り調べ、拷問のような問いかけです。
拷問をした場合、苦痛に耐えかねた人が取ると予想されるのは、嘘の供述をすることです。
自分に「天職とは」と思い詰めてあれこれ適職診断をやったりして問い続けるのは、拷問を続けるようなものです。
自分の内面を見る目は当てにならないということだ。答えを求めて自分の心のなかを覗くと、私たちの心は適当なことをでっち上げるのだ。
(ロルフ・ドベリ『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』(サンマーク出版、2020年1月)116ページ)
ロルフ・ドベリさんは、スイスの実業家・作家です。複数の企業の経営者等を経験し、よりよい人生のための知識のまとめ本を書いています。
そのドベリは、自分の中に答えはない、それは錯覚だと警鐘を鳴らしています。
自問をすれば真実や的確な答えにたどり着くという考えは、「内視の錯覚」と呼ばれている(「選盲」あるいは「自己観察の錯覚」と呼ばれることもある)。
(同上)
「内視の錯覚」なんて用語があるんですね。
そして、この「自問をすれば真実や的確な答えにたどり着く」という考え、仕事でいえば「自問をすれば好きな仕事や適職にたどり着く」という考えは、大きな思い違いであるそうです。
この考えは、ただの小さな思い違いではない。
同上
なぜでしょうか。
「内視の錯覚」に陥って自分が確信していることをまったく疑おうとしないと、誰かが自分のものの見方に共感しなかった場合に、私たちは3つのパターンのいずれかの反応を示すことになるからだ。
同上
反応①:「相手が無知なのだと考える」
反応②:「相手は愚かなのだと考える」
反応③:「相手に悪意があると考える」
(3) 天職を信じ込むものは他人に迷惑
「好きなことを仕事にすべき」「やりたい仕事に就くべき」と信じこんでしまうと、他人との関係で問題が生じます。
他人に対しても以下のように思いこむということです。
- 「この人は、仕事や天職について何も知らない」と思う。
- 「この人は、頭が悪くて仕事とはどういうものかわかってないのだ」と思う。
- 「この人は、私が仕事で不幸になることを望んでいる」と思う。
転職エージェントや友人に相談するときに、このように他人に対して悪い思い込みをするのは適切ではありません。
自分の認識をゆがめてしまいます。
(4) 自分の思い込みい酔いしれる
ドベリのこの問題についてのまとめは以下の通りです。
自分が確信していること以上に納得のいくものはない。何があっても自分の信じることに固執しようとするのは自然な反応だ。
(同上)
だが、それは危険なことでもある。内観、つまり自分の内面を見て得られる答えは、ほとんどでっち上げだからだ。自分の考えを深く長く信じすぎると、それが間違いだと気づいたときのショックもその分大きくなる。
だから何かに対して強い確信を持っているときほど、自分の考えには批判的でいよう。
自分が「こうだ!」と思いこめたら快適です。とても心地がいい。
しかし、それは危険だということです。その心地よさを求めてありもしない答えを見つけだそうとするのは得策ではありません。
「適職」「天職」というのは後知恵です。
好きなこと、自分の向いていることはこれだ!と思って仕事をするのではありません。
仕事をしてみて、「これが天職だ」と思い込みさえすればそれが天職です。
2 天職もやりたい仕事も常に変わる
私は、小学生1年生くらいのころは、「電車の運転手になりたい」と言っていました。
その後そう思ったことはありません。
人の考えはうつろいやすく、変化します。
やりたいことや好きな仕事を「絶対にこれ!」といったものはありません。
(1) ベストアイデアは変わっていい
常に自分の中では優先順位や考え方は変化し続けています。
そして、変化し続けるので全く問題ないはずです。
最高のアイデアが無傷のまま1年が過ぎたら、それは無駄な1年である。
(デビッド・クラーク『マンガーの投資術』(日経BP社、2017年)209ページ)
これは、著名投資家ウォーレン・バフェットの右腕チャーリー・マンガーの言葉です。
マンガーは弁護士出身で独学で投資に成功し、バフェットと60年来のビジネスパートナーとして大成功し、自身も2000億円の資産を築いたスーパービジネスマンです。
(2) 自分の最高のアイデアを壊す
バークシャーが少しずつ進歩しているとすれば、ウォーレンと私が自分たちの最高のアイデアを破壊するのが得意だからです。最良のアイデアを破壊しなかった年は、おそらく無駄な年になるでしょう。
(Poor Charlie’s Almanack: The Wit and Wisdom of Charles T. Munger Expanded Third Edition 56ページ)
“If Berkshire has made a modest progress, a good deal of it is because Warren and I are very good at destroying our own best-loved ideas. Any year that you don’t destroy one of your best-loved ideas is probably a wasted year.”
そして、マンガーは、ウォーレン・バフェットが率い自らが副会長を務める会社バークシャーについて、大きな進歩を毎年遂げている理由を上記のように述べています。
常に過去の自分たちの最高のアイデアを破壊しているから進歩しているのだと。
自分の仕事を探すのにも、この考えは参考になると思います。
自分の「きっとこの仕事が自分のやりたいことだ」という考えは、常に批判的に破壊されうるものと考えましょう。
3 天職を見つけるには現実をベースにして柔軟に考える
やりたいこと、好きな仕事、天職、適職。
これらの言葉は、自分の内面だけをとらえた自分勝手な概念です。
(1) 仕事は自分の外部環境を考えて
現実世界は、給料、勤務地、家族、職場の同僚と、さまざまな外部環境が重要です。
こうした環境を度外視して「やりたいこと」だけに注目するのは賢いやり方とは思えません。
よくわからない「本当の自分」とその本当の自分がやりたい仕事を追い求めるのは非現実的といえます。
(2) 内面の「本物の」自分は幻影
「本物の」自分とは幻影に過ぎない…。
私たちは文脈の中で時を生き、時間に応じて文脈も変化する。その中で自分が何かを演じているというのは正しい言い方かもしれないが、だからといって自分が「本物でない」とか偽善的であるとは言えない。自然界や社会が私たちを迷路の中に置き、私たちはそこで自分の人生を演じるのである。
(ハーバート・A・サイモン『学者人生のモデル』(岩波書店、1998年)まえがき)
この「本物の自分とは幻想である」と言ったのは、ハーバート・サイモンです。
サイモンは、「経済学から経営学,政治学,心理学,計算機科学,認知科学に及ぶ広大な学問領域で文字通り画期的な業績を上げ,各分野の発展の礎を築いた20世紀の知の巨人」 です(岩波書店ウェブサイト)。
サイモンは、「文脈の中で時を生き、時間に応じて文脈も変化する」といい、その中で自分を演じるのが人生と説きます。
そうであるならば、仕事も、その時々の現実の環境に応じて自分を演じるようにしてするもので全く問題ないはずです。
やりたいことがあり、こうした外部環境とバランスがとれるなら最高です。
しかし、やりたいことだけを考えて周りをみないとそれがうまくいくとは限りません。周囲を大いに落胆させることになるかもしれません。
また、やりたいことが思い浮かばないなら、どこかにあるはずの青い鳥の天職を探し求めるよりは、現実をみるべきです。
では、現実でやりたいことがないならどうしたらいいのか?
4 仕事や転職では嫌いなことを避ければ十分
「賢人が目指すべきは、幸福を手に入れることではなく、不幸を避けることだ」
―アリストテレス
積極的に「やりたいこと」を求める必要はありません。
現代は職業が多すぎます。
この中から「これだ!」と自分が本当にやりたいことを見つけ出すのは至難のわざです。
ではどうすべきか?
逆に考えて、「やりたくない」「嫌い」なものを避けて、それ以外ならよしとしましょう。
(1) ウォーレン・バフェットの成功の秘訣
ウォーレン・バフェットも、避けることを成功の秘訣として挙げています。
伝説の投資家、ウォーレン・バフェットは、自分自身とビジネスパートナーのチャーリー・マンガーについてこんなふうに書いている。「私たちは、ビジネスにおける難問の解決法を学んだわけではない。学んだのは、難問は避けたほうがいいということだ」
(ロルフ・ドベリ『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』(サンマーク出版、2020年1月))
やったことがない仕事について、これはやりたい仕事か?と問いかけるのは難問です。
あまり考えこまずに避けた方がいい類の問題かもしれません。
(2) ミケランジェロの傑作の作り方
かのミケランジェロも、余計なものを排除して傑作を作りあげています。
ローマ教皇がミケランジェロに尋ねた。
(ロルフ・ドベリ『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』(サンマーク出版、2020年1月)1ページ)
「あなたの才能の秘密を教えていただけないでしょうか?あなたはどのようにしてダビデ像をつくり上げたのですか――この傑作中の傑作を?」
ミケランジェロはこう答えた。
「とても簡単です。ダビデではないものを、すべて排除したのです」
天職の見つけ方についてローマ教皇とミケランジェロが会話すれば以下のとおりになるでしょう。
- ローマ教皇:あなたが天職につけた秘密を教えていただけないでしょうか。あなたはどのようにしてあなたが素晴らしい成果を上げられる仕事に就いて充実した毎日を送っておられるのですか?いい転職エージェントに相談したのですか?
- ミケランジェロ:とても簡単です。好きではない仕事を、すべて無視したのです。
(3) やりたくない仕事は避ける
世の中には、たくさん仕事があります。
その中からやりたくない仕事を除外するのは大して問題ではないはずです。
除外しても他に仕事はたくさんある。
そうすると「まあいいか」と思える仕事ばかりになります。
それで十分なのです。
大切なのは、ごくシンプルなこの事実を認識することだ。「すべきでないこと」は、「すべきこと」より、はるかに影響力があるのだ。
(同上)
よりクリアな思考をし、より賢く行動するには、ミケランジェロの言葉を思い出そう。ダビデに意識を集中させるのではなく、ダビデでないものに集中して、それを排除すればいいのである。
5 逃げの転職から天職に行くつく
私は、きつすぎる仕事や職場の辛い対人関係を断つための転職を経験しています。
仕事を辞める前は「自分はストレス耐性が低すぎるのかな。。」と悲しい気持ちになりましたが、転職はしてよかったです。
仕事の中で「これは嫌だ。受け入れがたい」という要素を見つけ出し、それを避けるために転職したのです。
転職によって自分により良い方向に軌道修正することができました。
大企業の新卒プロパーの同僚が低能なのに偉そうで傲慢で見ていてきつい、、という理由で転職したこともありましたが、私にはよい判断でした。
あまり転職エージェントには理解してもらえない理由でしたが、私には重要な要素でした。
*****
「やりたい仕事がない」というのは悩ましい状況かもしれませんが、あまり思い詰めることはないと思います。
ないならないでしょうがありません。だってないんだもん。
そんな自分を許して、うまくやりくりして人生を好転させるようにした方がいいです。
転職も適職やら天職やらといったキャッチーな言葉にとらわれて「やりたい仕事をすべき」だと執着せずに、柔軟によい仕事を探しましょう。
もし今の仕事が嫌だ、やりたくないと思うなら、それはミケランジェロを見習って、傑作を作る(他の自分にとってよりよい仕事を見つける)チャンスの兆候である可能性があります。
準備は怠りなくしてよい仕事に就けたらと思っています。
ということで私は常に転職エージェントとの対話はオープンにしています。
常に自分の仕事についての考えを検証、破壊することでよりよい仕事に就ける可能性が高まります。
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