会社に就職したら法務部に配属された。司法試験には合格していない。
「法務のスキルを磨きたい」「自分で法務としてのキャリアを築いていかないといけない」と思っているいわゆる無資格法務部員の方には司法試験合格を目指した勉強をするのがおすすめです。
「司法試験の勉強はしてたけど合格しなかった。。」
こういう人は過去記事で「法務以外の道に進んではどうか」と書いたことがありますが、やはり法務の仕事がしたくて法務として働くことを選んだ人は、司法試験向けの勉強を続けることをおすすめします。
なぜなら、司法試験の勉強をした経験があるということは知識面では素人より遥かに優位だからです。
私が司法試験の勉強を始めた当時を思い出すと「法律行為??契約のことだと考えておけ、ってどういうこと??」と何もわかっていませんでした。司法試験受験生であったということはこうした躓きはないでしょう。
司法試験不合格の経験がある人が司法試験再チャレンジに向けてやらなければならないのは、勉強法を変えることでしょう。
1 傲慢無資格法務になりたいか?
数年間法務部に在籍すれば、誰でも自分が「法務専門家」だと思うようになります。
専門家といえるようなスキルが身についたかどうかは関係ありません。
法務部で何か作業をしていれば、「自分は法務の仕事をしているのだ」と思うようになる。
他部署からは法務の専門家だと言ってもらえる。
意識の高い上司や先輩からは「法務専門家として・・」というありがたい訓示を受ける。
どんな謙虚な人でも自分が有能な法務人材だと思うようになるのは避けられない。
1人法務の方が恐らくその勘違いに陥る可能性は高い。
「これはリーガルリスクがあります」「それはやってはいけません」「契約書きちんと読んでください」
とあれこれ言っていて誰からも法務的な判断についてフィードバックを受けなければ独善的になっていきます。
「自分のやり方、考え方が法務の仕事のスタンダードなのである」と。
では複数人の人数がいる法務部に所属していれば大丈夫なのか?
大規模法務部であっても、大してスキルがないのに自分は有能だと思うようになることは変わらないでしょう。
法務スキルの自信という面でいうと、無資格法務部員よりも、大手法律事務所のアソシエイトの方がはるかに謙虚です。
無資格法務の方が自信満々。スキルは乏しいのに専門家を気取るので傲慢です。
厳しい事務所で働いていたら傲慢になる余裕はありません。
以下に書くように弁護士で法律事務所で働いた人との差は大きく、また企業の法務部だけにずっといるのはあまり法務スキル向上になりません。
2 法務の世界のライバルは弁護士 | 差は歴然
無資格法務で法務の世界でハイクラスのキャリアを築きたい、高い給料を得たいと思うなら、ライバルのことを考慮に入れなければなりません。
強敵は、無資格法務ではなく、有資格法務の人である弁護士です。
ニューヨーク州弁護士もいますが、本記事では日本法弁護士を念頭に置きます。
(1) ブランドの差
弁護士資格のブランドは極めて強い。
弁護士と全く関わりのない人は、「え、あの人弁護士!?うひゃー」という反応を示すことが少なくありません。
また、法務業界の中で弁護士という資格に疑いの目を向ける人はあまりいません。「弁護士はみんな優秀というわけではない」という弁護士の枠内の話をするだけです。
弁護士という資格自体がそもそもイマイチである、という議論をする人はほぼいないということです。
法務業界内外において弁護士ブランドは通用します。
ある会社が、法務部長を外から採用する時に、候補者として無資格者と弁護士有資格者が並べば、
「弁護士は嫌いだ!」という採用担当者もたまにはいるかもしれませんが、弁護士有資格者が有利になることは多いといえます。
司法試験に合格すればこのブランドが手に入ります。
法務として働いていくならば手に入れておいて全く損はありません。
(2) 知識の差
司法試験に合格するにはかなりの知識を習得しなければなりません。
つまり、司法試験に合格した弁護士は、かなりの知識を習得しているのです。
司法試験受験勉強の過程で身につける知識は実務で活用できます。
憲法の勉強は実務に役立ちませんが、民法の勉強はめちゃくちゃ役に立ちます。商法も役立ちますし、刑法もたまに使います。
司法試験合格のためにがっつり勉強してきた弁護士はそうした膨大かつしっかりとした基礎知識をベースに法務実務に就いています。
司法試験向けの勉強をしていないということは、そうした知識ベースがないということです。
司法試験受験生だったが合格していない人はどうか?
司法試験に合格していないということは、司法試験合格というバーを越えていないことを示しています。
そのため、バー以下の知識レベルであると言えますし、また、バーという一定の閾値に達していない人は、かなりの知識レベルだけれども残念ながら合格していないのか知識レベルが低すぎて箸にも棒にもかからぬレベルなのかがわかりません。
司法試験合格者は、一定のレベル以上であることは証明されています。
司法試験合格だけでは実務レベルでは全く不十分ですが(憲法は使わない、刑法も刑訴もほとんど使わない、民訴や商法も使わない人は全然使わない、民法は共通して使うことが多いくらい。したがって司法試験以外の知識が実務では必要になります)、ある程度の素地があることの裏付けになります。
司法試験に合格していない法務は法律知識が実は全くないようなレベルである可能性がありますが、司法試験に合格している法務はそのおそれはありません。
また、簡裁で司法書士を敵として戦った経験から思うのですが、司法試験の論文試験で法律解釈やあてはめを訓練するのは大切だなあと思っています。
司法書士も含め非弁護士の法律関係の専門家は、解釈・あてはめが弱い。弱いというかできない。練習していないから。
「最高裁判例がある。だから原告の勝ちである」と平気で主張してくる。
最高裁判例から規範部分を抜き取り、具体的事案に照らしてどうなのか、本事案でその規範は有効なのかといった面倒くさい議論を展開して主張するのが大切なのですが、これは論文試験の勉強の中で養われます。
弁護士でも受験生時代の論文の書き方を引きずっていると思われる人はたまいにいます。「この点、」と書きがちだとか。
(3) 業務経験の差
これは司法試験合格というより、法律事務所で働いたことがあるかどうかに由来する差です。
法律事務所で働くことは法務実務スキルアップにかなり役立ちます。
会社と法律事務所両方で働いて思うのが、法律事務所では答えを出すことについて対価をもらうことのプレッシャーがあることから真剣に法務に取り組まざるをえず、その経験がスキルアップに寄与しているのだと思います。
他は、会社と違って法律事務所だと色々な企業の仕事を見ることもできます。
会社だと他社とやりとりはあれど仕事の進め方はその会社内法務部の閉じられた環境で出来上がっていきます。
1人法務だと独自の法務仕事術が仕上がっていきます。
ガラパゴス化が進みます。
私がいたある法務部では「時期が後に成立した契約が優先する原則」という謎の原則が部内研修資料で書かれていました。
そんな原則どこでできたんや、、と思えるのが平気でまかり通っています。怖いな会社法務部。
そんな自分勝手な法務仕事術をキャリア初期に植え付けられたらシャレにならん!ということで、本ブログでは新人弁護士の最初の就職先としては法律事務所を勧めています。
(4) 企業内弁護士が増加傾向にある法務人材業界
弁護士だから有能とは限りません。
しかし、無資格法務だから有能とは限らないのもまた事実です。
資格以外の要素では有能さを判断できなければ資格の差で法務人材としての評価は分かれるのは自然です。
無資格法務にとっても問題なのは、その資格が弁護士という強力なものである点です。
経理人材で簿記3級資格があるかどうかは大して差にならないはずです。他方で、法務における弁護士資格の有無は大きい。
法務業界で法務の職務経歴を積み重ねて高い給料をもらいたいと考えるなら、弁護士が法律事務所から企業へ流入しているきている事実は見逃せません。
業界内で弁護士が増えたら、「法務部員として採用するのは弁護士に限る」というところが増えるかもしれません。
また、弁護士資格がないとポジションが上がらないという大手の外資系企業法務部もあるようです。
法務人材の誰が有能でだれが低能かという判断は難しいので、法務部のメンバーを決める上で弁護士資格必須とするのは最低限のラインを設けられるのでけっこう合理的なやり方であると思います。
3 法務部にいても知識はあまり身につかないし、実はスキル向上も限定的?
弁護士でなくても、法律事務所でなくても、会社法務部としてしっかり働けばスキルは向上して、平凡な弁護士よりも有能な法務部員になれるのでは?
それができればなれそうですが、実際はなかなかうまくいきません。
(1) 法務部で純粋な”法務”問題に頭を使う時間は少ない
法律事務所に比べると、会社法務部では”法務”にかける時間が少ないです。
会社員としての雑用が多いのです。
私は日系でも外資でも働いていますが、法律事務所に比べて会社は余計な雑務が本当に多い。
e-learningを受講しろ、情報共有の会議に出ろ、エンゲージメントについてのアンケートに答えろ、月報を書け、健康診断を受けてない人は早く受けろ、、、等々法務に関係のない連絡がひっきりなしにきます。
法務部としての仕事もどうしようもないのが多い。
ワードファイルの修正履歴の消し方がわかりませんとか、契約書に書いた社内コメントを消さずにそのまま相手方に契約書ファイルを送付する愚か者の営業マンとか、各国の法務が集まって何かしようとか、日本では意味不明とされる契約条項が入った英語の契約書をテンプレートにするために日本語に翻訳するとか。
こんなどうしようもない雑務を10年やって何が身につくのか?
法律事務所ではこんな雑務はありません。有給休暇や福利厚生もないですが。。
契約書や法律専門書、判例を集中して読む時間は法律事務所の方がはるかに長い。
法律文書を書く機会も多い。
(2) 長年いてもスキルはあまり向上しない
数年あるいは10年以上ずっと法務部にいるから法務の腕前はかなりのものになっている。
自分にこう自信を持つ人は多いでしょう。また他人のことも「あの人は長年の経験がある」と評価するかもしれません。
しかし、私は単に長年ある場所にいるだけでは大してスキルは向上しないと思っています。
野比のび太みたいな人が会社に新卒ではいって15年いたとすれば、5年たとうが15年たとうがのび太はのび太です。
元々大したスキルのない人がスキルを意識的に伸ばそうともせずに前述したような会社の環境(法務について頭を使う機会は乏しく、雑務が多い)にいれば、雑務をこなしているだけで「法務の仕事をしている」と勘違いします。
下手なサッカー、バスケの選手が、大して練習もせずに試合だけ出場を続けていれば、最初のうちは何もできなくて憔悴するけれども、そのうち慣れて自分の実力の範囲である程度の動きができるようになります。
自分の乏しい資源を使って最低限のパフォーマンスをするようになるのです。
しかし、そこから先は試合にで続けてもその最低限のパフォーマンスを続けるだけです。自分の能力の限界を上げなければそうなります。
意外にも年長の医師は、若手の医師と比べて医療の知識に乏しく、適切な治療の提供能力にも欠けていることがわかっている。楽にこなせる範囲で満足し、同じことを繰り返していては、一度身につけたスキルも徐々に落ちてしまうのだ。
アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年)第5章冒頭
会社法務部のベテランの腕前が低いのはまさにこれによるものです。
法務業務を「楽にこなせる範囲で満足し、同じことを繰り返」すだけ。難しいことは外部の弁護士に丸投げ。
これでは力が付かないのは当然です。
法律事務所で働く弁護士はそうではありません。「え、何それ。。そんなの知らないんだけど・・。」という問題を急にやれと言われます。
長年の経験はスキル上達をもたらすとは限らないという研究があるそうです。
2005年にハーバード・メディカルスクールの研究チームが発表した論考だ。彼らは、医師が提供する治療の質が時間とともにどのように変化するかに関する研究を幅広く調べている。医者としての活動年数が長いほど能力が高まるのであれば、治療の質も経験が豊富になるほど高まるはずである。しかし結果はまさにその逆だった。論考の対象となった60あまりの研究のほぼすべてにおいて、医師の技能は時間とともに劣化するか、良くても同じレベルにとどまっていた。年長の医師のほうがはるかに経験年数の少ない医師と比べて知識も乏しく、適切な治療の提供能力も低く、研究チームは年長の医師の患者はこのために不利益を被っている可能性が高いと結論づけている。
アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年)第5章
長年の経験を積むだけでは技能は上がらない。じゃあどうしたらいいのか?
それについてはこの本が「限界的練習」という概念を用いて技能習得について説明しており、興味深い内容です。
(3) 向上心があってもただの趣味
法務部員の中でも「私は積極的にセミナー等に参加したり基本書を読んだりして勉強している。他の低能法務部員とは違うんです」と思う人はいるでしょう。
しかしながら、法務スキル向上においては「講義やセミナーを受けてもほとんど何の効果もない」はずです(アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年)第5章)。
ゼロとは言わないですが、分厚い法律関係の本を読むのはただの法律オタクの趣味にしかならず、ハイクラス法務人材としてのキャリアを築くのに良いこととは思えません。
4 無資格法務は司法試験の勉強をすべき
無資格法務であって向上心があるなら、司法試験合格に向けた勉強をすべきです。
(1) 司法試験合格者になる道が開ける
司法試験の勉強を始めることこそが合格への第一歩です。
日々の仕事で偉そうな顔をして法律の解釈を講釈できるような力があるなら司法試験に挑戦してみてもよいでしょう。
司法試験の勉強をしない人は、たいてい「私には無理です」「どうせ私なんか」「私は頭が悪いから」と自分を卑下します。
頭悪いのに仕事ではよく偉そうな顔出来ますねと皮肉も言いたくなります。
勉強より仕事の方が大変なはずです。
法務の仕事に興味があるなら、司法試験合格を目指すべきです。
転職できる先が広がり、自分の扱える領域も広くなります。
給与面でも報われるはずです。
(2) 効率よく知識が身につく
漫然とセミナーや研修に出ても技能向上にはならないと上述しました。
司法試験受験勉強で効果的なものは、問題演習などの試験で点数を取れるようになる負荷の高い勉強です。
受験を念頭に置くならばこうしたややきつい勉強をたくさんしなければなりません。
しかし、そうした勉強はただ聴くだけの講義やただ読むだけの読書よりはるかに知識が定着します。
会社法務部で働きながら司法試験の勉強をするのであれば、民法・商法から始めて、民法・商法を中心に仕事でも使える知識を重点的に勉強するようにすれば勉強が業務に役立ちます。
(3) 時間をかけてよい【数年後差がつく】ただいるだけ vs 勉強を継続する
勉強にかける時間があまり割けないのが社会人受験生の抱える問題ではあります。
しかし、その反面数年時間をかけられる余裕もあります。
専業受験生と違って働き続けていれば勉強を続けながら給料が入ってきます。これは専業受験生とは違う恵まれた面です。
短期的に集中してたくさん時間を取れる見込みがないのであれば、長期目線で勉強計画を立てるべきです。
最近の認知心理学者らの適切な学習に関する文献を読むと、短期集中の詰め込みよりも分散学習の方が効果が高いとされています。
時間をかけて適切に勉強時間を分散させて必要知識を身につけてから司法試験(予備試験)に挑むということが社会人受験生にはできます。
数年の時間をかけて司法試験受験に備えるという負荷の高い勉強を続ければ、それは数年後の自分へのよい贈り物になるはずです。
3年間あるいは5年間、地道に勉強を続けた後の将来の自分と、その間特に勉強をしていなかった将来の自分を比較してみてください。
勉強を続ければかなりの高みに到達しているはずです。逆に特に勉強をしていない将来の自分は、悲しいくらいスキル向上はないはずです。
司法試験合格を目指すんだ!という目的があると、意識的な訓練になりますので、法務パーソンとしては漫然学習よりはるかによい勉強ができます。
(4) 落ちてもよい(社会人受験生の特権)
もう一つの社会人受験生の特権。
落ちたって問題ない。何回落ちても問題ありません。
5回も6回も落ちたら勉強法を変えた方がいいとは思いますが、社会人受験生は専業受験生みたいな悲壮感は持たずにすみます。
「周囲に合格を宣言すべき」というアドバイスがありますが、嫌なら別に宣言しなくていいでしょう。
自分のペースでやるべき。
宣言して自分のお尻に火をつける効果はあると思いますので、戦術として周囲に宣言するのはありだとは思います。
また、落ちたり途中で嫌になったりしたら受験するのをあきらめてもいいと思います。
嫌なものは続けられません。
自分には向いていないと適性を知るのも重要です。
5 法務部員のおすすめ司法試験勉強のコツ
司法試験受験勉強の方法論は本でもネットでもたくさん出ているので、社会人受験生に良さそうなものを見つけてそれに則るのがよいと思います。
ここでは詳細は触れず、簡単にポイントだけあげます。
①司法試験受験を意識した勉強をする
司法試験受験生には、学者の本のマニアになったり、特定の論点や学説にこだわったり、試験には関係のない沼にはまる人がいます。
お勉強をするのだ!というマインドではなく、時間を投資して司法試験合格というミッションを完遂するのであるという合理的ビジネスパーソンの思考を持つべきです。
②難しすぎず易しすぎない適切な負荷をかける
「まずは基本を身につけてから」といって、講義を聞いたりテキストを読んだりすることを重視する人は多いですが、それではいけません。
負荷が軽すぎます。
ある程度難しくチャレンジングな素材を使って訓練をしなければいけません。
試験勉強のためには、問題演習で高負荷を自分にかけるべきです。
難しすぎれば全く手も足もでず、身につくものは乏しくなるため、自分にあったちょうどよいレベルの負荷のかかる勉強をするのがポイントです。
6 司法試験受験予備校
予備校に行けば受かる、予備校に行かないと受からない、ということはないですが、勉強何したらよいかわからんという人は予備校を使った方が時間の節約になります。
(1) 資格スクエア
私が今どこか予備校を選べと言われたら資格スクエアを選ぶと思います。
比較的受講料が安く、高野さんが講師をやっているからです。
私なら上記の「導入期パック」を買います。
基礎講義が含まれている一番安いプランです。長期でのんびりやります。
高野さんは昔伊藤塾のわかりやすいと評判の人気講師でした。
いったん司法試験受験指導は辞められた後、また受験指導の世界に戻ってきています。
無料資料請求や無料説明会もありますので、興味がありましたらぜひ聞いてみましょう。
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(2) STUDYing
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