使えない中年社員の下で長年くすぶるのなんて嫌だ!
それに比べてスタートアップ企業は自由と責任があっていきいきとして面白そう。
大企業への転職に比べてベンチャー企業転職への方が安全性の面で懸念点が多いのですが、ベンチャー転職で得られるものについても説明します。
1 スタートアップは給料が安く、ブランドが弱く、不安定で、ブラック企業になりがち
ベンチャー企業は、大企業に比べて金がありません。
私は何年も求人情報を見ていますが、大企業の方が全般的に給料は高いです。
最近は一部のスタートアップが高めの給料を出す事例が見られますが、少数です。
基本的に中小企業の方が給料が安いです。ベンチャー企業はほとんどが中小企業であり、給料は安いです。
そして、ベンチャー企業は企業ブランドが確立していません。
企業名を名乗っても多くの人にわかってもらえません。
大企業は違います。多くの人が知っていて、そこで働いていると言えば一目置いてもらえます。
ベンチャー企業は、ビジネスも安定していません。
「安定しているベンチャー企業」と表現したら矛盾でしょう。
したがって、従業員の給料、雇用も安定していません。
仕事も何もやるか安定していません。
大企業も明日どうなるかわからないというのであれば、小さなベンチャー企業の方がより明日を知れない毎日です。
また、小さな組織で少数の人の意向が蔓延しやすい職場は危険です。
「死ぬまで働け」という人がリーダーの職場なら、ブラック職場になる可能性は高いのです。
社会的意義のある事業をやっている会社で「やりがい搾取」されないように気をつけなければなりません。
▼これって大丈夫?大手内定を辞退してベンチャーで働くある若手社員の例
取引先企業の営業で都内を駆けずり回る日々。時には企画を練るために、自主的に午前2時まで働くこともある。「働き方改革」が進む大手企業だったら、そんな生活はなかっただろう。でも「思いっきり仕事ができる環境は大手にはない」と一蹴。「僕が日本の就活を変化させる一翼を担っている」と意気込む。
日経産業新聞2020年1月15日「新卒でスタートアップを選ぶワケ――雑用・気配りお断り!、早期に活躍機会求める(就活探偵団)」
2 ベンチャー企業は弱小企業ゆえにできることが限られる
ある大手外資系企業の転職面接にて。
3人目の面接官。日本法人の役員です。
その人は、かつてベンチャー企業にもいたことがあるとのこと。
そこでこう聞いてみました。
「ベンチャー企業と御社を比べてどうですか?」
そのベンチャー企業経験役員の回答。
「ベンチャー企業は、できないことが本当に多い。
資金力が乏しく、やりたいことがあってもできない。信用もない。
思うようにできないというのは大変だった。」
これに比べて、大企業は違います。
豊富な資金力、人員、信用、ブランドにものを言わせて大きな仕事ができます。
千億円超のM&Aとかは大企業にしかありません。
他の有名企業等と仕事をする機会にも恵まれています。
海外出張はビジネスクラスだったりします。
会社内の設備も中小企業より整っています。
整い具合でいったら、ベンチャー企業は、ないない尽くしです。
大手企業から中小企業に移って嫌われる人は、この「ないない尽くし」を指摘する人だそうです。
「前にいた会社にはこれがあったあれがあった」という人です。
「そんな文句言うなら転職してくるなよ」と反感を買うのです。
3 「世界を変える」ビジネスという幻想
「残りの一生を砂糖水を売って過ごしたいか、それとも世界を変えるチャンスを手にしたいか」
これはスティーブ・ジョブズがペプシの幹部を引き抜く際に言った言葉とされています。
スティーブ・ジョブズは、iPhoneなどによって「世界を変えた経営者」のように言われることがあります。
このようなカリスマのいる会社、カリスマ性のある会社に早い段階で入って「世界を変える」意義のあるチームの一員になりたい。
このような思いでベンチャー企業を志す人もいるはずです。
事実、私は転職エージェントにこのようにベンチャー企業転職を促されたことがあります。
「メルカリは世界を変えるすごい会社だと思いますよ」と。
しかし、この「世界を変えるビジネス」というのは幻想にすぎません。
転職時には相当に割り引いてこの点を考えるべきです。
ヒット作『シンククリアリー』の著者ロルフ・ドベリは次のように言います。
「個々の人間が世界を変えられる」という思想は、現世紀を象徴するイデオロギーのひとつだが、実はまったくの幻想でしかない
(ロルフ・ドベリ『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』(サンマーク出版、2019年)393ページ以下)
この理由は以下の2つです。
(1) 「これはすごい意味がある重要なことだ」と入れ込んでしまって他が目に入らなくなる
何か1つに入れ込むと、「フォーカス・イリュージョン」に陥ってしまいます。
「ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンは、次のように説明している。フォーカシング・イリュージョンとは「特定のことについて集中して考えているあいだはそれが人生の重要な要素のように思えても、実際にはあなたが思うほど重要なことでもなんでもない」という錯覚を表す言葉だと。」(114ページ)
ダニエル・カーネマンは、この思い違いについてこう説明している。「あることについて集中して考えているあいだはそれが人生の重要な要素のように思えても、実際にはあなたが思うほど重要なことではない」。
ある会社のビジネスや理念が「すばらしい!」と大変感動したら、ちょっと冷静になってよく考えるべきです。
自分だけが思い込んでいるだけの可能性が高いということです。
ルーペを使って地図を眺めると、ある部分だけが拡大されるのと同じように、世界をよりよくするためのプロジェクトにのめり込んでしまうと、その意義は実際よりずっと大きく見える。私たちの注意はルーペのように作用して、私たちにプロジェクトの意図の重要性を過大評価させてしまうのだ。
(2) 大きな変化は誰かが成し遂げるもの、という幻想
インドが独立を勝ちとるにはガンジーのような人物が不可欠だったし、スマートフォンの開発にはスティーブ・ジョブズの存在が不可欠だった。
……世界的な変革は、まさにその変化をもたらそうとした「誰かの意図が働いた」からこそ起きたと私たちは考えがちだ。
ある理想を掲げる企業が「いいね!」と思うと、その企業こそが何か大きな変革を社会にもたらすのでは、と人は期待してしまいます。
このような考え方は誤りなのですが、人に生物学的に備わった考えとして定着しているドベリは言います。
「変化の裏には、誰かの意図が働いている」という考え方は、私たちの進化の過程から来るものだ。何かが起きたときには「誰かの意図が働いている」と考えておいたほうが、意図は存在しないと思い込むより、「安全」だったからだ。
茂みの中でガサガサ音がしたときは、風のせいだと考えるより、お腹をすかせたサーベルタイガーや敵の戦士が潜んでいると思ったほうがいい。
……現在生きている私たちは、「何かの出来事の背後には、必ず誰かの意図がある」と考えた人たちの生物学的な子孫である。その考えは、私たちの脳の中にしっかりと組み込まれている。
そのため私たちは、誰かの意図とは無関係に起きた出来事に対しても、誰かの意図やその出来事の背後にいる誰かの存在を感じてしまう。
あるイベントがあれば、それは誰かの存在と結びつけてしまうのです。
歴史もそう信じられています。
偉人が歴史を作ったと。それゆえ、会社にも同じようなものを望むのかもしれません。
しかし、事実は違うとドベリは言います。
「歴史をつくった人物などいない」
そのときどきで起きる出来事は、その時代の流れや周囲の影響を大いに受けた結果生じた、偶然の産物にすぎない。歴史は、一台の車によってつくられるというより、むしろ多くの車が行き来した結果として、できあがっていくものなのだ。
全体の舵取りをしている人間など、存在しない。
世界の歴史に秩序はなく、偶然に左右されるところも大きいため、先行きの予測は不可能だ。細かく歴史的な資料を調べてみれば、大きな変化が起きる際には、必ず偶然の要素が含まれているのに気づくはずだ。歴史上の「重要人物」は、当時起こった出来事の登場人物のひとりにすぎないこともわかってくる。
世界を変える仕事、というたいそうなふれこみは思い込みが作った産物である可能性があります。
ベンチャー企業等に仕事の社会的意義を感じて就職しようとするなら、抽象的意義ではなく、「具体的にどんな事業をやっているか」に注目すべきです。
(3) 「世界を変えるベンチャー」への期待の具体例
日経産業新聞2020年1月15日にちょうどいい「ベンチャーに夢を持つ」学生の例が掲載されていました。
2019年3月に某大学院を修了したOさんは「100年に一度の変革期、世の中にインパクトのある仕事ができる」といううたい文句に引かれ、修士2年の6月に大手自動車メーカーの内定を獲得。無事就活を終えたはずだった。
( 「新卒でスタートアップを選ぶワケ――雑用・気配りお断り!、早期に活躍機会求める(就活探偵団)」)
「俺、入社して幻滅したのよ」。その年の秋、大野さんは別の大手自動車メーカーに新卒で入社したものの、わずか数カ月で退社した男性と話す機会があった。彼の話によると、その会社の先輩や同僚の多くは「出世の心配をしている」「上司の顔色ばかりを気にしている」というのだ。
就活の時はなんとなく「学んでいた機械工学の知識を生かせるから」「大手企業で安泰だから」という理由で就職先を選んでいた。「大手に入ったら組織の論理に飲み込まれてしまうのか」。大野さんはこの時初めて「働く」ということの意味を考えたという。
その後、ベンチャー経営に携わった人など様々な社会人からキャリアについて話を聞いた。そして出た答えは「僕は会社のためではなく、世の中をよくするために働きたい」ということだった。悩みに悩んだが年が明けた1月に自動車メーカーに内定辞退を申し出た。
ベンチャー志望「あるある」な例でしたので紹介しました。
4 スタートアップ企業への転職で得られるもの
「じゃあベンチャー企業はだめか?」かというと、そうでもありません。
大企業にないものがあります。これが大きい。
まず、人がいません。人がいないということは、ポジションが空いているということです。
大企業はポジションがありません。部下持ちになるのが40歳を過ぎてから、40歳を過ぎても部下持ちになるのはいつかわからない、という人はたくさんいます。
ベンチャー企業は違います。若くして幹部になれるチャンスがあります。
そして、何でも屋になる必要があります。「経験がありません」なんて言ってられません。他の社員も経験はないんです。
組織の中で大きな責任を持つことになる、というのがベンチャー企業就職の醍醐味だと思います。
大手企業では若手は「下積み」と称して雑用に振り回されがちだ。管理職になれるのは10年目以降のケースが多いようだ。採用コンサルタントの谷出正直さんは「早くから活躍の機会が欲しいと考える上位校の一部の学生にスタートアップを目指す傾向がある」と分析する。
(日経産業新聞2020年1月15日「新卒でスタートアップを選ぶワケ――雑用・気配りお断り!、早期に活躍機会求める(就活探偵団)」 )
世界的エグゼクティブサーチの一つであるエゴンゼンダーに面談に言ったときも「ベンチャー企業に転職すれば、経営者になるための経験が短期間で一気に得られる可能性がある」という説明をされました。
大企業で30年かかって得られる経験を5年くらいで一気に得られる可能性がある、ということです。
これは、前述のベンチャー企業のデメリットを補って余りあるか考えるべきメリット(得られるもの)です。
5 ベンチャー企業への転職にはエージェントから情報を集めてよく考える
大企業に転職できる人があまりよく考えもせずベンチャー企業に「面白そう」と転職するのはよく考えるべきです。
「成功間違いない」と言われるような著名ベンチャー企業もあれば、先行き不安しかないベンチャー企業もありで、様々な企業があります。
前記のような説明は一つの考えにとどめて個別具体的に各企業がどうかをよく検討すべきです。
スタートアップを目指す学生はどのようなことに注意すべきか。登録企業の約7割がスタートアップ企業であるスカウトサイト「キミスカ」を運営するグローアップ(東京・新宿)の松山朋子さんは「スタートアップ選びは、大手以上にきちんと会社分析をする必要がある」と説く。
(日経産業新聞2020年1月15日「新卒でスタートアップを選ぶワケ――雑用・気配りお断り!、早期に活躍機会求める(就活探偵団)」 )
上場企業や有名企業とは違い、スタートアップの就活では情報が少ないのがネック。
ベンチャー企業の情報は集めにくいですから、複数の転職エージェントから情報を集めるべきです。
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