就職や転職で会社を選ぶ際に、福利厚生が充実している会社が良いですか?
福利厚生を重視しすぎて会社を選ぶのは賢明な判断ではありません。
会社選びという重要な決定にあたり、福利厚生という小さな項目で決めるのは愚かなことです。
1 福利厚生の充実度を会社選びの理由とすべきではない理由
なぜ福利厚生の良さで会社を選んではダメなのか。
賢明なる会社選びをしたいと思っている人には全くおすすめできない選択理由だからです。
別に賢明な決定はしたくない、という人は福利厚生で選ぶのでも全く問題ありません。
(1) 福利厚生の重要度は低い
会社の魅力を測る上で、福利厚生はとても小さなファクターです。
小さなファクターに過大な重点を置いて決めるのは賢い決め方ではありません。
会社の社長を選ぶにあたって、「あの人は声がいい」という理由だけで選ぶようなものです。
社長であれば人前で話すことも多く、声はいい方が良いのはそのとおりかもしれません。
しかし問題は、「声がいい」というそれだけで決めてしまうことにあります。
「え?それだけで決めるの?」と多くの人が思うでしょう。
福利厚生だけで就職先や転職先を選ぶのも同じことです。
もっとも、多くの人は福利厚生「だけ」では会社は選ばないとは思います。
現実的に問題となる愚かな決断の仕方は、福利厚生を過度に重視してしまうことです。
重要度の低い福利厚生を殊更に重要視して会社の良し悪しを決める、これはよい判断ではありません。
(2) なぜ福利厚生を重視してしまうのか
エン・ジャパンの上記アンケート結果によると、福利厚生を重視するという人は、20代では半数を超え、若い人ほど福利厚生を重視しているという結果が出ています。
若者の方が愚かとは言わないですが、上記結果は若いほど愚かな考えを持っていると言えます。
しかし、福利厚生というイマイチな理由で会社選びをしてしまうのでしょうか。
これにはもっともな理由があります。
そして、若者ほどそのような判断をしてしまうのにも理由がある。
その理由はこうです。
どの会社を選ぶべきか?これは難問です。
難問であり、答えはなかなか出せないですが、自分なりの答えを出さないと就職・転職ができません。
どう会社を選ぶべきか選び方が分からない人は、藁にもすがる思いでどう選べばよいか途方にくれます。
そこで目に入るのが福利厚生です。
福利厚生はあった方がよいと良く聞く。福利厚生があるといいらしい。たしかに良さそうだ。
それに福利厚生を充実させている会社は良い会社に違いない!
こう思い込みます。
これは問題の置き換えです。
「どの会社が入社するために良い会社か?」という問題を自分の頭の中で「福利厚生が充実している会社は良い会社か?」という問題に置き換えてしまうのです。
困難な問題に直面したとき、私たちはしばしばより簡単な問題に答えてすます。しかも問題を置き換えたことに、たいていは気づいていない。
ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー 上』(早川書房、2012年11月)23ページ
若い人の方が福利厚生を重視してしまうのも無理はありません。
年長者よりも働いた経験が乏しく、会社選びのファクターをあまり持っていないからです。
「これとあれとそれを会社選びの項目にしよう」というのがなかなか出てこない。
学生の就職人気ランキング上位の会社を見ても、基本的に有名な会社ばかりです。そして、B to Bビジネスの会社は少なく、B to Cビジネスの会社が多い。
そうなるのは、「よく見る会社」「良さそうな会社」が良い会社だと思ってしまうからです。
福利厚生を重要だと考えているならば、自分で安易に問題を置き換えてしまっているのではないか疑わないといけません。
そのような安易な考えでは良い会社選びをしていることにはならないのです。
2 充実した福利厚生のメリット
福利厚生が良ければ良いことは当然あります。
(1) 収入が上乗せになる
福利厚生はものによっては実質的な給料です。
たとえば住居手当。
給料に加算されて支払われるので、給料の一部を構成するものといえます。
このような福利厚生は年収を上げてくれます。
(2) 支出を減らせる
資格補助手当や、食事の支給等。
こうした福利厚生があれば、自分の支出を減らせます。
取ろうと思っていた資格を取るための費用や自分で用意すべき食事の費用を会社が負担してくれるので、自分は支払わなくて済む。
このような福利厚生は、税金を考えると前記(1)よりも従業員にはお得です。
なぜならば、以下①と②を比べると、②の方がお得だからです。
①10万円を会社からもらう
②10万円自分で支払うはずだったものを会社が払ってくれる
どうして②の方がお得なのか?
税金があるからです。
10万円を会社からもらうと税金がかかるため、10万円そのものはもらえません。
①は、税率が30%とすれば、7万円しかもらえないことになります。
②は、自分の支出10万円を避けられるので、10万円の価値があります。
したがって、会社が従業員の費用を肩代わりしてくれる福利厚生制度はありがたい。
3 福利厚生の落とし穴
福利厚生が充実していることがかえって良くない事態を引き起こす。
(1) 福利厚生を使わないと損と思い、行動の自由を奪われる
食べ放題に行くと、「払う金のもとを取ってやる!」といって食べ過ぎてしまう。
福利厚生でも同じようなことが起きます。
せっかくあるんだからフルに使い倒してやろう、と思うようになるのです。
あれこれ福利厚生があると、自分に合うものを探すのが大変です。
また、福利厚生を活用するには条件付きである場合もあり、それぞれ条件をチェックしなければなりません。
そして、その福利厚生を享受するには当然条件をクリアしなければならない。
これらはけっこうな時間を取られます。
福利厚生を満喫しようと思うなら、福利厚生に詳しくならなければなりません。
そういうのが楽しい人はいいですが、無駄な時間であることには変わりがありません。
ある会社では、夜何時以降まで働くと夕食代補助、という福利厚生がありました。
夕食代が出るなら、ということで長時間会社に残ってしまうことになります。
福利厚生によって自分の行動の自由が知らぬ間に奪われているのです。
(2) 不公平感を生む
福利厚生をガンガン使う人とそうでない人とで差が出ます。
サニーサイドアップという会社では、オフィスで無料でたまごかけご飯が食べられるそうです。
私はたまたかけご飯は好きではないので、会社では食べたくありません。
たまごかけご飯は食べない人がいる一方で、たまごかけご飯を食べる派の従業員には、米、炊飯器、たまご、準備する人の手間といったコストが費やされています。
たまごかけご飯が嫌いな従業員が「なんであいつらのために金を出すのだ」と思ってもおかしくありません。
TOEICの受験補助などは、社員の英語力アップを図るインセンティブとして良いかもしれません。
しかし、その場合でもすでにTOEICが高得点な人やバイリンガルの従業員などはその恩恵を受けられません。
(3) 資金の割当てとして本当にそれでよいのか
株式会社は、資本を投下して利益を生み出すことが本質的使命です。
その貴重な資本を、上記のような弊害もある福利厚生にむざむざ使ってよいのか、という問題があります。
機会費用を考えれば、他によい資金の使いみちはあるのではないかが問題なのです。
従業員を迷わせ、不公平感を生むのであれば、福利厚生は最低限度にし、給料を上げた方がよいかもしれない。
4 福利厚生が充実しているからといって良い会社であるとは推認できない
「福利厚生が充実しているということは、従業員思いの会社ということで、きっと良い会社に違いない!」
福利厚生を重視する人は、福利厚生それ自体を重視しているのではなく、充実した福利厚生を出すような会社は良い会社に違いないから、福利厚生の充実度を良い会社を測る手がかりにしているのだと言うかもしれません。
しかし、福利厚生が良いからといってその会社が良い会社とは限りません。
福利厚生の充実度が会社の良し悪しを測る指標になるとは思えません。
(1) 福利厚生を提供する会社の事情
ある企業の経営者会議でのやりとり。
我が社は、社員向け福利厚生としてベネフィット・ステーションと契約しているのか?
そうです。
ベネフィット・ステーションは従業員にどれくらい使われているのか?
ほとんど使われていません。
それなら解約すればよいのではないか?
ベネフィット・ステーションは、求人を出す時などに会社の福利厚生をやってますアピールとしてあると便利なんですよ。
なるほど。
会社が福利厚生を提供するのは、従業員のことを思ってではなく、「いい会社アピール」のためである可能性があります。
(2) 福利厚生は担当者の趣味で決まっているかもしれない
「良い会社」というときの、「会社」とは誰のことを差すのでしょうか?
会社は法律上は人ですが、無形の存在です。思考も感情もありません。
「会社」が福利厚生のメニューを決定することはなく、実際には会社内の役職員が決定しています。
福利厚生は、担当者の一存で決まっている可能性が高い。
オーナー経営者のように経営者が強い権限を持ち、福利厚生の内容を決定しているかもしれませんし、大企業で人事部が決めているかもしれません。
福利厚生は一部の限られた人の趣味で決まっているだけである可能性があります。
重大な決定は、現在も何千年前と同じように、権力を持つ立場に ある少数の人間の直感と好みで行なわれている。
ーダニエル・カーネマン(マイケル・ルイス『かくて行動経済学は生まれり』(文藝春秋、2017年7月)280ページより)
福利厚生の社内における重要度は会社によって異なりますが、一部の決定権者が自らの権力行使の一貫として、「これがいい!これならみんな喜ぶだろう」という直感と好みで行われているだけだと思われます。
福利厚生を決めるのに厳密に何か決まり事をもって決めている会社があるのでしょうか。
そうであるとすると、そのようにいいかげんに決められる福利厚生が「会社」が良いか悪いかを判断する材料としては適切とは言えません。
5 会社を選ぶ際に福利厚生はどう考えるべきか
転職や就職において福利厚生についてどう考えたらよいでしょうか。
(1) トータルで考える
福利厚生を考えるなとは言いません。
福利厚生も考えるべきです。
ただ、福利厚生だけで考えたり、福利厚生を重視しすぎるのが問題です。
福利厚生は会社選びの一要素に過ぎないと考えるのが適切です。
会社選びの一要素のうちの、給与等の待遇の一部が福利厚生です。
主な福利厚生については、金額で給料に含めて評価しましょう。
住宅補助が月3万円出るのであれば、それは給料年間36万円分としてカウントしましょう。
複数の企業を比較する際に、福利厚生を金額換算して給料に含めて考えれば、異なる福利厚生を提供する複数の会社を同じ土俵上で評価できます。
(2) 質問すべき福利厚生
面接であれこれ福利厚生について聞くのはよい作戦とは言えません。
福利厚生についてたくさん質問を受けてそれについて答える面接官の気持ちを考えるべきです。
応募者は質問を上手く使うべきです。
求職者が会社に対して聞く価値がある質問は、「主な福利厚生」です。
「オフィスに無料の給茶機はありますか?」とショボい福利厚生についての質問であり、あまりよくありません。
住宅手当等の金額換算した場合の額が大きい福利厚生について聞くべきです。
しかし、面接の段階で聞くのは住居手当であってもあまり自分の印象を良くするものではないため、転職エージェントを介して聞くのがおすすめです。
転職エージェントに「住居手当等の主な福利厚生について会社に聞いてください」と頼みましょう。
転職エージェントはこういう時に便利な存在なのです。
(3) 福利厚生以外をきちんと考えよ | 自分にとって何が重要か
福利厚生はそれ1つを重要視するのではなく、他の要素とトータルで考えるのが重要だと前記(1)で書きました。
会社を選ぶ際には、自分でどのように会社を選ぶのかという判断基準を持ち、それに準拠して考えるべきです。
以下過去記事ではそのような会社の選び方を解説しています。
福利厚生という些末な要素に頭の中の会社選びの要素を占拠されるのは望ましくありません。
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