FIREの落とし穴:早期退職の危険性

FIRE 落とし穴
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「会社を辞めて働かない生活を送りたいなあ」

こう思うサラリーマンは無数にいるはずです。

だからこそ、”FIRE”には甘美な響きがあり、多くの人の憧れとなって、書店にはFIREと銘打ったたくさんの本がならんでいるのです。

FIRE(Financial Independence, Retire Early)」は、経済的自立を達成し早期退職を目指す生き方として注目を集めています。

しかし、一見この魅力的に見えるライフスタイルは、あまりおすすめできるものではありません。

経済的自立はいいのですが、アーリーリタイアが良くないのです。

本記事におけるFIREとは、超富裕層といえるようなお金はないが(純資産2億円未満程度としておきましょう)、会社員などの毎日の仕事を若年(若いとはいえませんが、50代以前を若年とします)のうちに辞めて、その後は特に仕事をしなくなり、それほど贅沢はできないけれども支出額をあまり多くしなければ死ぬまで特に働かなくても生活はできるようになることを念頭におきます。

資産が100億円くらいある会社社長で、「もう社長業はやめだ。これからは慈善事業に時間を費やすぞ」といったのは本記事ではFIREの対象から外します。

目次

1 FIREの真の問題点:早期退職は心身に悪く、不幸せになる

FIREの何がいけないかというと、FIではなくREがいけない。

早期退職はよくない。

(1) 早期退職はデンジャラス

早期退職は何が良くないか。

自分に良くない。

自分の心身に良くない。

むしろ危険です。

ア 早期退職はストレス

FIRE願望者に恐ろしい結論を先にお伝えすると、早期退職は大きなストレスを自分にもたらします。

職場の対人ストレスが嫌で引退するのに、引退しても強大なストレスにさらされるのです。

引退したら気ままな暮らしができて、長い旅行を始め、これまでずっとしたかったことを何でもできる、と人々は想像する。だが実際には、引退後の呑気な日々はいつまでも続くわけではない。しばらくは「囚われの身から解放された」と感じるものの、まもなくマイナスの要素が忍び込んでくる。引退後の夢のような生活?それは神話にすぎない。

現在では、引退は大半の人に多大なストレスをもたらすことがわかっている。定評ある「ホームズとレイのライフイベントストレス表」によると、日常生活における上位好のストレス要因のうち、引退は第10位で、「健康上の大きな変化、あるいは家族の態度」(第11位)より上だ。証拠はどこに?引退が心身に悪影響を及ぼすことを語るデータは山のようにある。必然的にこれらのデータは相互につながっているが、その総和は神話を打ち砕き、冷厳な事実をあなたに突きつける。

ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)343-344ページ

引退後のストレスフリーの生活は「神話」です。

そんな神話を夢見て早期退職すれば、強烈な心理的ストレスにさらされます。

その心理ストレスはFIRE民を早死にさせます。

体に悪いのです。

イ 早期引退は早期死亡をもたらす

早期引退は体にも悪い。

どう悪いかというと早死にする可能性が高まる。

引退はあなたが死ぬ可能性を高めるのだ。
引退しないことを選択すれば、死亡リスクは1パーセント下がる。つまり、生きる可能性が高くなる。

……引退した人の健康状態が、同年齢の仕事を続けた人のそれより悪いことを、研究者らはかねてより知っていた。

ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)344ページ

具体的にはどう早死ににつながるのでしょうか。

病気になりやすい

早期引退は、がんなどの恐ろしい病気に罹患しやすさをアップさせます。

引退した人は、心臓発作や脳卒中などの心血管疾患になる可能性が40パーセント高い。血圧、コレステロール、BMIのすべてが不健康なレベルにまで上昇する。恐れるべきは心血管障害だけではない。引退者はがんにもなりやすい。糖尿病にも罹りやすい。関節炎にもなりやすく、そのせいで歩くことも難しくなる。引退した高齢者の場合、いずれかの慢性的な健康問題を抱えるリスクは20パーセントだが、仕事を続けた高齢者のその数値はおよそ半分だ。

ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)344ページ
  • 心臓の病気
  • 脳の病気
  • がん
  • 糖尿病
  • 関節炎

これらの病気になりやすくなる。Retire Earlyによって。

Retire Earlyとは、会社からのリタイアだけではなく、人生からのリタイアも早くすることを意味するようです。

頭が悪くなる

書籍では、「知力が衰える」と表現されていますが、よりわかりやすく言うと早期引退した人は頭が悪くなっていきます。

引退した人は、働いている同年代の人に比べて、流動性知能が急速に衰える。先に述べたとおり、流動性知能とは「新しい情報を柔軟に把握し、変換し、操作する能力」のことだ。しかもその衰えは微々たるものではない。流動性知能のテストでは、引退者のスコアは引退していない人の半分だ。記憶テストのスコアも、25パーセント低い。つまり、引退するのは、まだ死んでいない自分の追悼文を書くようなものなのだ。

ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)345ページ

早めに引退して仕事をしなくなるのは、痴呆老人に早くなれるよう訓練しているようなものです。

うつになる

職場ストレスがひどくてうつ状態になってしまった。。

仕事をやめてそんなストレスとはおさらばだ!と思ったらより重度の鬱になる、なんてこともありえます。

引退でうつ病になる危険性が40パーセントも高まる。認知症になるリスクも増える。もしあなたが60歳ではなく65歳で引退すれば、認知症になるリスクは15パーセント減る。その減少のペースもわかっている。60歳になった後も働けば、認知症になるリスクは毎年3.2パーセントずつ下がる。

ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)345ページ

ウ 早期退職によって社会的孤立に至る

早期退職して何がいけないかというと、典型的FIRE願望の強い大して金持ちでもないサラリーマンの特徴は、

「職場の人間ともう顔を合わせたくない!」

という対人関係ストレスをことさらに重視することです。

しかし、全く人と会わないのは良くありません。

独居や孤立した生活によって健康は損なわれる。孤独な環境は、タバコを1日に15本吸うのと同じくらい身体にとって悪いものであるということを報告している研究もある

ルイージ・フォンタナ『科学的エビデンスにもとづく100歳まで健康に生きるための25のメソッド』(東京大学出版会、2022年11月)15ページ

学校に行けば強制的にたくさんの年齢が同じ人達に会うことになる学生と違い、社会人になって働かないで家にいたら、他人と会話をする機会は激減します。

社会的に孤立しているのと同じです。

働くというのは、そうした社会的孤立から脱するということでもあるのです。

エ FIRE願望者も実は社会的孤立は望んでいない

X(旧Twitter)を見れば、「FIREしました!」と資産●千万円を築いて会社を辞めたという自慢ツイートをする人をちらほら見かけます。

彼らは、会社の職場関係がク〇でゴ〇のようなものだと吐き捨てています。

そんな人間関係を断ち切れてうれしいのだと言います。

しかし、〇ソで〇ミのような関係は、その人とその周りの狭い職場でのものです。広く人間関係がダメというわけではありません。

職場の人間関係で悩んでいるからといって、「自分は誰とも良好な対人関係を築けないのだ」と自分の能力を卑下したり、「どこに行っても会社はダメだ!」と全否定するのもよくありません。

どちらも安易な一般化で多くの人が陥る愚かな思考法です。

FIRE民は自慢したい(社会とつながっていたい)

FIRE民に以下どちらがいいか聞いてみてください。

①1000万円がもらえる。会社は辞められない。

②100億円がもらえる。しかし、条件がある。自分が金持ちであると他人に知られることは絶対にない。飛行機でファーストクラスに搭乗しても、CAには「たまたまアップグレードでエコノミーからやってきた強運の一般人」と思われる。エルメスの服で全身を固めても、他人には〇二クロの服にしか見えない。フェラーリを乗り回しても、他人にはト〇タ車にしか見えない。

②の100億円受領の条件は、お金について一生自慢ができないということです。

私は自慢したがりではないので②を選んでもストレスにならなさそうですが、Twitterで自分の資産額が平均よりも大きいことやアッパーマス層に属しているとか、大台を超えたとか自慢することを抑えられない人には、②を選んだら人生で一生後悔しそうです。

これはしょうがない。

他人とのつながりを断つのは良くないのです。

(2) 経済的自立は悪くない

FIREのうち、Financially Independentは別に悪いとは思いません。

バフェットも経済的自立は良いと言っていたと思います。

会社や誰かに従属しなくても生活できるんだという能力は、心にゆとりをもたらすはずです。

2 経済的自立に必要な資金

世の中には見切り発車FIREをしてしまう会社員がいるようです。

資産が数千万円程度で、仕事をやめてしまうのです。

では、どれくらいのお金があればFIREできるでしょうか。

(1) 1億円未満では厳しい

私なら、2億5000万円以上の金融資産があれば、FIREしてもいいかなと思うくらいです。

何で2億5000万円か。

私なら、配当収入で暮らすなら最低500万円くらいほしい。

配当利回り2%とすると、2億5000万円の金融資産で配当が500万円になります。

しかし、20.315%の税金を考慮すれば、2億5000万円あっても配当は年間400万円になります。

2億5000万円全額株式で持つわけにもいかず、現預金も必要なので、2億5000万円よりももっと欲しいなと思うところであります。

ここで聡明なビジネスパーソンは気づかれると思いますが、2億5000万円も蓄財して早期退職できるような会社員はほとんどいません。

(2) 期待する配当利回りが高すぎる

Twitterで、あるブロガーが以下のように言っていました。

「1億円あれば投資して配当利回り4%で400万円配当が得られる」

4%の配当利回りは期待する配当利回りとして高すぎです。

日経平均の平均配当利回りは2%台前半程度です。

「高配当株ばかり買えばいいじゃん。4%超の高配当株けっこうあるよ。JTとか。配当たくさんもらえるていいことばかり。何がいけないの?」と高配当株投資に目がくらむ人からケチを付けられそうです。

配当はもらえれば誰だってうれしいです。

たくさんもらえる方がうれしい。

問題は、全員がそう思っているのに、配当利回り4%や5%で放置されていて、あまり買い手がおらず、配当利回りが下がらない株があるということです。

そういう株のことを高配当株と言います。

「高配当株」とは、株価の割に配当がたくさんもらえる株式のことですが、言い換えれば割安株、もっと端的に言えば不人気株です。

配当をたくさんもらえるのになぜ不人気なのか?

要因は色々ありますが、一番根本的なのは、「将来株価が上がるとは思われていないから」ということでしょう。

高配当株を買うことは、割安株を買うことで逆張り投資をすることになるので、「多数派は間違っている!この高配当株は将来株価が上がるのだ!」と思って買うのは悪くありません。

良くないのは、「とりあえず配当たくさんもらえるから。」という理由で他に何も考えず思考停止で買うことです。

プロが集まる魚市場に素人が魚を買いに行って、多くのプロが見向きもしない魚を「これ安くていいじゃん!」と思って買うようなものです。プロはその魚は腐り始めているから買っていないのかもしれません。

さらに最悪なのは、1億円だか数千万円だかといったまとまった金額を全て高配当株で埋め尽くしたポートフォリオにしてしまうことです。

これは、プロが買わない腐った魚で自分の魚入れ容器を埋め尽くすような行為です。

配当がほしいがために自分の全財産を全部不人気株にぶちこみたいですか?

(3) 税金を考えていない

「1億円あれば投資して配当利回り4%で400万円配当が得られる」

というたわけツイートのもう一つの問題は、税金を無視していることです。

20%程度税金がかかります。

1億円で不人気株で埋め尽くした配当利回り4%のポートフォリオを構築して配当を400万円もらっても、80万円は税金で差し引かれます。

320万円しかもらえないのです。

1億円もあって高配当株を買いまくっても320万円しか配当は手に入りません。

つつましい生活をするなら320万円でも十分かもしれないですが、もう少し働いてもいいんじゃない?と思います。

3 早期引退ではなく常に活発に活動できる環境を目指そう

引退すべき年齢について、科学的な研究から導かれる答えは、この一言に尽きる。
「そんな年齢はない」

ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)346ページ

今の職場環境がいやだから、とにかく脱出したい。

そのことだけを念頭において、FIREという言葉に引き込まれる人が多いように思います。

さっさと仕事をしなくなるのは、そんなにいいものではありません。

目指すべきはFIREではなく、充実した毎日です。活発に楽しい生活を目指すべきです。

今の状況が嫌で単にそこを離れたからといって幸せになれるわけではありません。

早期退職は目的達成のための最良の手段とは限らないのです。

早期退職は心身に悪影響を与えることもあり、退職した後に何をするかよく考えるべきです。

何回か転職している私からすれば、今の職場が嫌なら転職すればいいと思います。

そんな簡単には良い仕事は見つからないと思いますので、簡単にFIRE!と言って燃え尽きないで、好きな仕事を探求していけるといいですね。

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