働く社会人としてどうすれば成長できるのか。
仕事がよりできるようになって出世や転職をして収入を増やしたい。
そう思うのであれば、入社1日目と入社3年目を比較したら、入社3年目の方が仕事ができるようになっていないといけません。
また、入社3年目より入社10年目、入社10年目より入社20年目と、できることは増えていってほしい。
できることが増えているからこそ役職が上がり、給料も上がる、はず。
しかし、多くの人はそうはなりません。
ほぼ成長はせず、スキルは2,3年目くらいの自分とあまり変わらない。
どうしたら職場環境への慣れや人脈でやり過ごすといったうさん臭い実力ではなく、本当の実力を高めて成長していけるのでしょうか。
そのカギは、自分の過去のやり方を捨て、新しい技能を習得する絶え間ない修練にあります。
1 社会人は成長しない(ことがほとんど)
上司や先輩社員は、部下・後輩に対して偉そうな態度を取ります。
なぜ偉そうな態度を取るかというと、役職の上下や年齢の上下もありますが、「私の方が仕事の経験をより長い期間積んできているので、私の方が仕事ができるのです」という思い込みがあるからです。
Twitter上でも「新入社員はこうしよう!」というおせっかいなおじさん・おばさんのツイートをよく見かけます。
見知らぬ若者より自分の方が仕事の腕前は当然上だと思い込んでいるからこそのアドバイスです。
見知らぬ新人には、メジャーリーグに入ったばかりの大谷翔平レベルの人がいて、そのレベルの人にアドバイスしているのは、大学のサークルで野球を始めて社会人になっても月1回草野球をやっていて試合ではベンチを温めているおじさん野球人かもしれません。
スポーツと違って仕事では技能が目に見えないことも多いですから、長年いてでかい顔をしていれば「私は優秀」と思い込んでしまいます。
しかし、実際には長年働いても実力アップになるわけではありません。
むしろ技能は低下する。
(1) ベテランになるとかえって技能が低下する
ある職場に長年いれば技能が高まる、その思い込みの大部分は偽である可能性があります。
「何かを長い間継続すれば徐々に上達する」。これは間違っています。
同じことをまったく同じやり方でいくら繰り返しても上達はしない。むしろ停滞と緩やかな能力低下は避けられない。
(アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年))
2005年にハーバード・メディカルスクールの研究チームが発表した論考によれば、「年長の医師のほうがはるかに経験年数の少ない医師と比べて知識も乏しく、適切な治療の提供能力も低い」という衝撃の結果が出たそうです(アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年))。
彼ら(ハーバード・メディカルスクールの研究チーム)は、医師が提供する治療の質が時間とともにどのように変化するかに関する研究を幅広く調べている。医者としての活動年数が長いほど能力が高まるのであれば、治療の質も経験が豊富になるほど高まるはずである。しかし結果はまさにその逆だった。論考の対象となった60あまりの研究のほぼすべてにおいて、医師の技能は時間とともに劣化するか、良くても同じレベルにとどまっていた。
(アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年))
医師のように常に臨床の現場で自分の腕を使う職業ですら技能が時間とともに低下するとは!
パソコンでポチポチとメールのやりとりをして、会議で思いつきを戦わせるのが仕事だと思われている会社員であれば、もともと大したスキルもなく、それが伸びることもないのは当然でしょう。
(2) 「使えないおじさん」は将来の自分の姿
職場の「使えないおじさん」はなぜ大量生産されるのか?
多くの人が、自分のスキルを変化させようとせず、漫然同種のことを同じように繰り返しているだけで、スキルを低下させていくからです。
新しいポジションについて新しい仕事のやり方を身につけるといったことをしなければスキルは停滞し、メンタルも停滞する。
働く意欲もなく、動いても役に立つと思われない。
若手は「あのおじさん使えない」と揶揄するかもしれません。
しかし、多くの会社員はいずれそうなります。
自分の仕事のやり方を常に変えようとする人はほとんどおらず、手持ちスキルが陳腐化していくにあたって、出世しなければ役職もスキルもない人材になります。
おじさんやおばさんが就けるハイポジションは極めて少ない。
スキルが乏しいままハイポジションに就ければいいですが、そううまくはいきません。
多くはハイポジションにはたどり着けず、スキルもない。
多くの人が思っているのとは異なり、時間が経てばスキルの価値は落ちます。
ある時代で価値の高いスキルは、次の時代では価値が下がります。生鮮食品のようなものです。
(3) 「自分は他人とは違う」という痛い思い込み
なぜ多くの会社員が哀れな職業人生を送るのか。
みんななんだかんだで自分は優れている、特別だと思い、変わる努力をしたがらないからです。
ア 自分は特別と思ってしまう
自分のことが優秀と思い込む人は、変わる必要なんか感じません。
「デキる自分は自分なりに頑張ればそれでいい」と満足です。
そうして停滞していく。
他方で、自分のことが出来が悪いと思う人はどうか。こういう人も自分のやり方は変えません。「どうせ自分は」といいながら、なじみのあるやり方を貫きます。
誰しも自分は特別であり、ありのままの自分を保ちたい。
コンフォートゾーンから出たいと思う人は稀です。
イ 効果がない自習
「自分は学び続けている」という意識高い系の人も少数ながらいるでしょう。
しかし、その学びは本当に技能向上に役立っていますか?
研修に参加したり動画を見たり本を読んだだけで満足している人も多いのではないでしょうか。
それではアマチュアのテニスプレーヤーがテニス雑誌を読んだりときどきユーチューブの動画を見てうまくなろうとするのと変わらない。
(アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年))
受動的に学ぶだけでは知識が増えるが自分の行動としての技能向上にはほぼ効果がない。
講義やセミナーを受けてもほとんど何の効果もない
医者の継続職業教育の効果に関する研究の中でも、特に秀逸なのがトロント大学の医師兼教育科学者であるデイブ・デービスによるものだ。デービス率いる研究チームが実施したある非常に影響力の大きい研究(25)では、さまざまな教育的「介入」、すなわち講座、会議などの集会、講義、シンポジウム、医療ツアーなど医師の知識を高め、技能を改善することを目的とするありとあらゆる活動を調べた。その結果、最も効果的な介入はロールプレイ、ディスカッション、問題解決、実地訓練など何らかのインタラクティブな(相互作用的)要素を含むものであることがわかった。こうした活動はまだごくわずかではあるものの、実際に医師の技能と担当患者の治療結果の改善につながった。
対照的に最も効果が低かったのは講義中心の介入、すなわち参加する医師らが講義を聴くだけの教育的活動で、残念ながら継続医学教育で最も多いのがこのタイプだ。このように受動的に講義を聴くのは、医師の技能にも担当患者の治療結果にもまったく有意な効果がないとデービスは結論づけている。
同上
意識高い系の「自分は学んでいる」という人は、自己満足の世界に浸っていて自分の成長度合いを過大評価しがちです。
2 社会人が成長するには
成長とは、たとえばRPGゲームで、レベル10がレベル11に上がることですが、これは変化に他なりません。
レベル10という数字が、レベル11という数字に変わっているのです。
自分を高めるには自分を変える必要があります。
どう変えたらよいか。
(1) 自分のやり方を捨てる | アンラーニング
最高のアイデアが無傷のまま1年が過ぎたら、それは無駄な1年である。
デビッド・クラーク『マンガーの投資術』(日経BP社、2017年)209ページ
上記は、ウォーレン・バフェットの60年来のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーの言葉です。
自分の思っていることやアイデアの中でも最高だと思っているものを否定することをマンガーは勧めています。
成長するためには、自分が大切にしている自分流を否定しなけれなりません。
これは誰にとってもうれしいことではありません。
何しろ自分で「最高」と思っているのですから、自分でケチをつけるのは難しい。
「メール即レスこそが仕事がデキる人の証拠」と思い込んでいる人に「即レスってそんな意味なくね?」と思わせるのは困難です。
これは英語で言うところのa herculean taskです。
自分のやり方を捨てない限り、上達は見込めません。
ドリブルがうまくないサッカー選手がいつもと同じようにドリブルしていてもうまくはならない。
「ドリブルとはこうやるものだ」というメンタルモデルを刷新しなければならないのです。
これは実際のところ難しいですが、考えを新しくしなければ、どんな天才でも「使えないおじさん」になってしまいます。
天才の代名詞のアインシュタインも、後年は革新的な発表はあまりしていません。世界平和がどうとか別方面に行ってしまった。
天才でも新たな科学的事実を受け入れなければ間違う。アインシュタイン氏は光子が粒でもあり波でもあると指摘し、量子力学の扉を開いた。しかしアップデートができず、後年は大きな業績を残せなかった。
3人の晩節にみる教訓 経験や常識、天才惑わす 編集委員 青木慎一(サイエンスNextViews)
2023/07/09 日本経済新聞 朝刊
(2) 普段の仕事に訓練を取り入れる
次に、社会人の仕事の技能という面でどうしたらよいか考えます。
「社会人の学び直し」というテーマになると、高校数学をやり直すとか、歴史を勉強するとかそっち方面が出てきます。
学生の頃の学科を勉強し直すのはよいことかもしれません。趣味としては。
中高の勉強の内容も仕事の何かには役に立つかもしれませんが、関連性が薄すぎです。
のんびりしてたら職業人としての時間はどんどん過ぎてしまいます。
もっと仕事に直接役に立つスキルを磨くべきです。
「何を?」というスキルの内容は各人の環境によって違うためここでは取り上げません。
「どうやって?」を取り上げます。
どうやって仕事のスキルを磨いて成長したらよいか?
仕事関係のセミナーに出たり、本をただ読むだけでは不十分だと前述しました。
日常の業務を訓練の場に変えましょう。
たとえば。
話し手はプレゼンの間、特定のスキルに意識を集中する。聞き手を引き込むようなストーリーを語ること、あるいはなるべくパワーポイントのスライドに頼らず臨機応変に話を進めるといったことで、プレゼンを通じてこの点を改善するよう努力する。一方、聞き手のほうは話し手のプレゼンを見ながらメモをとり、終了後はフィードバックを与える練習をする。
アンダース・エリクソン=ロバート・プール『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年)
タイピングを習得しようとしているのであれば、不得意な文字入力を間違えずに正しい指で打つことを普段のパソコンを使う時に徹底する。
英語を勉強しているのであれば、新しい英単語を覚えて仕事でそれを使ってみる。
会議の進め方を良くしたいと思ったら、以下の記事を読んで学んでから、仕事の会議設定の時に意識してみる。
ポイントは、若干背伸びをしたり無理をしたりして、ちょっとぎこちなく感じたり、気持ち悪く感じることです。
そして、目指す自分と現在の自分のギャップを認識して、どうしたらその差が埋まるかフィードバックを得ましょう。
他人からフィードバックを得るのがよいですが、上司がフィードバックをうまく与えてくれるとは限りません。
誰か仲の良い人に指摘を頼むか、自分で判定できる仕組みを作るとよいでしょう。たとえば、「プレゼンの時に、『まあ』と言わないようにする!」と決めておいて、後で自分のプレゼンの録画を見て自省するとか。
自分のプレゼンを見るのはけっこう苦痛ですが、気づきは多いです。変なしゃべりの癖があったり、早口だったり、言葉遣いが気になったり。
(3) 新しいことを学んで仕事に取り入れる
前記(1)と(2)のまとめのような内容ですが、自分のアイデアを捨てるだけ、仕事を訓練の場に変えるだけでは足りません。
古きを捨てたのならば、新しきを導入しなければなりません。
自分のやり方を捨てるのは、新しいやり方を導入するための準備です。
また、仕事を訓練の場にするにしても何の訓練をするかを決めておかねばいけません。
したがって、仕事でパワーアップするには、新しいことを学び続けねばなりません。
常に新しいことを学び、古いものと交換し、仕事で試す。
コンセプトはシンプルですが、周りの同僚でできてそうな人いますか?
ほとんどいないと思います。
シンプルだけど効果はてきめんなはずです。
オーストラリアのターンブル首相が、知ったかぶりをしないで新しいことを学んで自分の仕事に使っているということを示す記述がありました。
オーストラリアはファーウェイを5Gネットワークから締め出すことを決めた。オーストラリアのマルコム・ターンブル首相は当初、全面的な排除には懐疑的だった。オーストラリアのジャーナリストのピーター・ハーチャーによると、ターンブルは「5Gセキュリティ完全ガイド(A Comprehensive Guide to 5G Security)』と題する全480ページの本を自分で買い、テクノロジー専門家に的確な質問ができるよう5Gのセキュリティについて勉強したという。
クリス・ミラー『半導体戦争―世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(ダイヤモンド社、2023年2月)422ページ
(4) 学び続ける
前述したとおり、ほとんどの社会人は仕事上あまり成長しません。
成長するには、自分を変え続けないといけません。
過去のやり方を放棄し、新しいやり方を習得し続けてはじめて前進できるのです。
誰もが下りのエスカレーターに乗っています。
上に向かって逆走し続けなければひたすら下降し続けます。景色が変わらなければ自分が以前より下に位置していることは気づきません。
学び続けるのが大切です。
学習は静的なものと思われがちだ。スキルを習得したらそれで終わり、と。だが、学習の性質、専門知識の性質は動的なものである。専門知識を習得するには、自分のスキルより少し背伸びしたレベルで学習しなければならない。もっと率直に言ってしまえば、学習にコンフォートゾーン〔楽をできる領域〕はないのである。
アーリック・ボーザー『Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』(英知出版、2018年7月)99ページ
少しずつでも日々自己変革と成長を心がけられる人は稀少人材と言えるでしょう。
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