転職活動中は、なんかそわそわします。
「この会社から内定がもらえるんじゃないか・・・!」
転職活動中にこう思った時は気をつけましょう。
過大な期待、落選時のショックで心理的ダメージを受けないよう冷静さを保つべきです。
転職活動中だからといって平常時の生活の質を下げるのはよくありません。
行動経済学の知見(授かり効果、サンクコスト等)を活かし、古代の偉人の知恵を借りて正しい心構えで転職活動に臨みましょう。
内定に過度な期待を抱くべきではありません。
1 転職活動中の内定期待ストレス
転職活動で、「ここなかなかいいな」と思ってある会社に応募します。
書類が通って一次面接に呼ばれ、「おお!」と思います。
面接前は緊張します。
そしていざ面接に臨む。
一次面接が終わるとほっとします。そして緊張していたこともあって「この会社いい感じだ!」と思います。
そんなときに、「この会社で働けたらどうなるだろう」といろいろ考え始めます。
二次面接に行くとさらに想像は加速します。
この状態で、次のプロセスの連絡が来ないと、悶々とした思いを抱えて辛い日々を送ることになります。
私は4次面接まで行ってその後1か月以上連絡が来ず、その後に落選のお知らせを受けたことがあります。
その時はかなり落胆しました。
2週間、3週間も空けば「もうだめか」と想像はつくのですが、行きたいと思っていた会社でしたので、やはりショックでした。
これはなかなか辛いです。
2 転職先から内定を既にもらった気に陥る心理
面接を受けただけでどうして内定をもらったらどうしよう、と宝くじが当たったらどうしようというような考えをしてしまうのでしょうか。
これは人の心理上なかなか避けにくい。
(1) 応募先に仮想の所有意識を抱く
ある程度転職活動にのめり込むと、その内定について「仮想の所有意識」を持つに至ります。
仮想の所有意識とは次のようなものです。
完全に購入しているわけではないものに所有意識をもち、その品の趣きや感触、感覚を十全に感じること
たとえば、イーベイでミッキーマウスの時計に入札するとしよう。オークションは間もなく締切で、現時点であなたが最高額入札者だ。オークションは終了していないから、まだ商品を所有していない。なのにすでに落札して所有しているように感じ、自分が商品を所有し、使っているところを想像する。だから、だれかが終了間際に最高額で入札し、商品をかすめとっていくと激怒する。これが仮想の所有意識だ。ミッキーマウスの時計を所有したことは一度もないのに、所有しているように感じ、その結果より高く評価する。
(ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー『アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金篇-』(早川書房、2018年)154ページ)
転職活動をやっていれば、内定を「もうもらった」といった気になってしまうことがあります。
なぜ転職活動で仮想の所有意識を持つに至るのでしょうか。
それは「労力」をかけているからです。
「これだけやってるんだから」という思いです。
所有意識はいろいろなかたちで現れる。所有意識が高まる原因の一つに、労力の投資がある。私たちはなにかに労力を費やすと、それが自分のものだという感覚や、自分がなにかを生み出したという感覚を持つようになる。どんなものでも、労力をかけると、その創出に関わったことで、一層愛着を感じる。それは大きな関わりである必要もなく、実際に関わる必要すらなく、ただなんらかのかたちで関わったと思うだけで愛着が増し、そのため一層高く評価するようになるのだ。家、車、キルト、オープンフロアの設計、お金に関する本など、なにかに労力を費やせば費やすほど、ますます愛着が増し、所有意識が高まる。
(同上150ページ)
(2) 転職活動中に生じた仮想の所有意識は授かり効果、保有効果(endowment effect)を生じさせて内定価値を過大評価する
転職活動中に「もうこの会社の内定はもらった」というような意識を持ってしまう。
そうするとどうなるのか。
その内定の価値を過大に評価するようになってしまいます。
私たちはなにかに投資をすると所有意識が高まり、そのせいで所有物に実際の価値とは無関係な評価を与える。何かを所有すると、どのようないきさつで所有するようになったかにかかわらず、それを過大評価する。なぜだろう。それは授かり効果と呼ばれる傾向のせいだ。
ただなにかを所有しているというだけで、その価値を高く評価するという概念は、ハーバード大学の心理学者エレン・ランガーによって初めて実証され、のちにリチャード・セイラーによって展開された。授かり効果の基本的な考え方は、あるものを今所有している人はそれを過大評価し、そのために将来の所有者が買おうとする金額よりも高い金額で売ろうとする、ということだ。なぜなら、それを買おうとする人は所有者ではないため、所有物への愛着から生じる授かり効果の影響を受けないからだ。一般に、授かり効果を試す実験では、売値は買値の約二倍にもなる。
……精密な実験の結果、高い売値は所有者が実際にその品に認める価値で、低い買値は潜在的な買い手が実際にその品に認める価値だということが判明している。何かを所有すると、そのものを実際より高く評価し、そのうえ他人も高い価値に気づいて割高な金額を払ってくれるはずだと、あたりまえのように考えるのだ。
(同上149ページ)
転職活動に即して簡単にまとめましょう。
要するに、面接を経て「内定がもらえそう」と思うと、その応募企業が過度に「いい企業」だと思えてしまうということです。
この思い込みが高まるのは好ましくありません。
内定がもらえなければ、過大評価していた分、大ショックを受けます。
また、運よく内定をもらった場合も問題です。
内定を受けた企業が「良い企業」と思い込んでしまっていれば、その企業を正しく評価できません。
冷静に考えたら現職場の方がいいかもしれないのに、その思い込みが内定先を強力に後押しするのです。
(3) 「せっかく苦労して内定をもらったから」というサンクコストにも注意
内定を受けるか否かを考える段階になったら、「これまでのこと」、すなわち転職活動中のことを考えてはいけません。
5次面接までいって、これだけ苦労して手に入れた内定だから価値があると思ってはいけないのです。
サンクコストは無視すべきです。
サンクコスト効果とは、ある行動や決定に伴う費用(金銭的や、時間的や、努力のコスト)が掛かった時に、その費用が後の行動や決定に影響することである。
(筒井義郎=佐々木俊一郎=山根承子=グレッグ・マルデワ『行動経済学入門』(東洋経済新報社、2017年5月)109ページ)
行動経済学者のダン・アリエリーも、キャリアを考える際にもサンクコストは無視すべきとアドバイスしています。
仕事やキャリア、人間関係、家、株式などにすでに費やしたお金や労力、時間を考えるのではなく、それが将来役に立つ可能性がどれだけあるかに注目すべきなのだ。
(ダン・アリエリー・同上164ページ)
サンクコストをあきらめ、新鮮な目でものごとを見るのは、だれにとってもよいことなのだ
(同上167ページ)
3 内定獲得に期待しすぎず今に集中せよ
期待するのはしょうがないのですが、はやる気持ちを抑えるべきです。
なぜなら、面接後の連絡を待つ「だけ」の日々になると、その間の日常の生活レベルが下がるからです。
転職に関するメールをひっきりなしにチェックし、それが毎日の優先事項になる。連絡が来ないと惨めな気持ちになります。
これはやめるべきです。
有りもしないものをすでに有るものと考えず、現に有るもののうちから最も素晴らしいものを選び出し、それに対しこう想ってみることだ。-もしこれがなかったら自分はどんなに探し求めることであろうか、と。
(マルクス・アウレリウス「自省録」 (講談社学術文庫)120ページ)
これは、ローマ帝国の五賢帝の一人であり、「哲人皇帝」と呼ばれたマルクス・アウレリウス・アントニヌスの言葉です。
転職活動中はこの言葉を胸にきざみましょう。
ありもしない内定をすでにあるものと考えず、現職場のいい面に着目し、こう思いましょう。「今の職場の良い面がなければ、自分はどんなにそれを手に入れたいと思うだろうか」。
たとえば、毎月確実に給料を支払ってくれる、というのは大変ありがたいことです。
現職場のことも考えましょう。
転職のことばかり考えると、現職場でのパフォーマンスに影響します。
転職活動は長引くかもしれません。その間にきちんと現職場でできることはすべきですし、現職場で良いものはきちんと享受すべきです。
そして、今身近にあるものに感謝するのは自分の幸福感に大きな影響を与えます。
幸せな人は、感謝を忘れません。何事も当然だと思わず、現在を大切にします。もし、○○がなかったらという見方は、現実に対する見方を変えてくれます。すると、常に新鮮な感覚を失わず、喜びや楽しみを見出せるようになります。
(友原章典『実践 幸福学 科学はいかに「幸せ」を証明するか (NHK出版新書 612)』(NHK出版、2020年1月)110ページ)
古代ローマのマルクス・アウレリウス・アントニヌスは現代の幸福学からしても正しいことを言っていたのです。
今の職場を大事にしましょう。
それが自分の幸福感アップに役立ちますし、転職にも役立ちます。
4 転職活動ストレスに負けない
いかがでしたでしょうか。
本記事のように心理面に意識した転職活動の心構えを解説する記事はあまりないと思います。
本記事を参考にすれば、自分の心理の癖を認識し、転職活動ストレスにやられて転職活動期間中の幸福度を下げず、より質の高い転職活動ができるようになるはずです。
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