複数を並行してやれば時間の効率的な使い方になるのか。
そうはならないようです。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」という結果になります。
効率性やたくさんの成果を追い求めてあれこれ手を出すと、逆の結果として低い効率性や乏しい成果が得られることになります。
そして、心ここにあらずの状態は人を不幸にしてしまいます。
結論:今に集中すべき。あれこれやろうとするのは避ける。
1 マルチタスクは仕事の生産性を下げる野蛮な行為
ある会社員のある日のオフィスにおける日常。
「さあ、これに集中して取り組むぞ!」と思った矢先にメールが来る。
ついそのメールを見てしまう。不要不急のメールでなくても。
こうして次から次へと不要不急メールや電話、同僚との会話で時間が取られていく。
一番時間と集中力をかけるべき仕事はあまり手つかずのままという悲しい状況。
これは辛い仕事の進行状況といえます。
(1) 1人は1つのことに特化した方がよい結果になる
人は一人であれこれやっていると生産性が上がりません。
経済学の父アダム・スミスは、今から約250年前に、分業によって生産性が向上したことを説きました。
全員が狩りをして食糧確保に努める未開の時代は、分業がなされておらず、生産性が著しく低かったのです。
(2) 分業・1つの仕事に特化の効能
なぜ分業をすると生産性が向上するのか。
アダム・スミスは3つの理由をあげています。
- 個々人の技能が向上する。
- 1つの種類の作業から別の種類の作業に移る際に必要な時間を節減できる。
- 多数の機器が発明されて仕事が容易になり、時間を節減できるようになって、1人で何人分もの仕事ができるようになる。
上記2.については、多くの人がその弊害を過小評価しているはずです。
作業Aをやって、作業Bに移行する。
このAとBの中間にある移行に無駄があるのです。
1つの種類の作業から別の種類の作業に移る際に無駄にする時間を節減できる利点は、たいていの人がまず想像するよりはるかに大きい。
(アダム・スミス、山岡洋一訳『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)』(日本経済新聞出版社、2007年3月)10ページ)
スミスが具体例としてあげたのは、農民が畑を耕すのと織物をするという、時代を感じさせるものです。
しかし、それだけでなく、「2つの作業を同じ仕事場で行える」場合であっても「無駄にする時間はかなりになる」と警鐘を鳴らしています。現代にもこれは通じるでしょう。
なぜそんなに無駄が発生するのかということについてのスミスの説明が面白いです。
人は誰しも、1つの作業から別の作業に移るとき、少しはだらだらする。新しい作業をはじめた瞬間から、熱心に仕事に打ち込むことはまずない。よくいわれるように、しばらくは気が乗ってこないので、だらだらしてすごし、仕事に専念できない。
(アダム・スミス同上)
実に本質を突いた指摘です。
(3) 現代のビジネスでもマルチタスクは問題
ウォーレン・バフェットの長年のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーは、マルチタスクの問題点についてこう言います。
いくつものことを同時に行おうとする人は、大きな代償を払うことになるだろう。
(デビッド・クラーク『マンガーの投資術 バークシャー・ハザウェイ副会長チャーリー・マンガーの珠玉の言葉 富の追求、ビジネス、処世について 』(日経BP社、2017年)222ページ)
この大きな代償には「成果をあげられない」というものだけでなく、「不幸になる」という悲しいものも含まれます。
不幸になる理由は後述します。
2 マルチタスクは効率が悪い | 1つに集中せよと賢者は言っている
マルチタスクがだめならどうすればいいのか。
これは簡単です。
1つのことに集中すればいいのです。
(1) ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットの成功の秘訣
ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットが2人でインタビューに答えた時、成功した理由を聞かれたとき、2人とも「focus(集中)」と答えたといいます。
その集中の効果をアダム・スミスはこう説きます。
人は誰しも、1つの目標に注意をすべて集中していると、さまざまな点に注意を分散しているときより、目標の達成を簡単にし速くする方法を見つけ出す可能性がはるかに高くなる。そして分業の結果、各人はごく単純な目標に自然に注意を集中するようになる。
(アダム・スミス、山岡洋一訳『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)』(日本経済新聞出版社、2007年3月)12ページ)
同時並行をやめて、1点集中の方が目標達成を早められるというのです。
(2) チャーリー・マンガー
チャーリー・マンガーもあれこれと新しい余計なものに惑わされずに、重要なものに特化することを勧めています。
あらゆる電子デバイスを持ち、いくつものことを同時にしようとするこの世代を見てごらんなさい。おそらく彼らは、ひたすら読むことに集中してきたバフェットほどには成功しないだろうと私は確信している。あなたが知恵を求めるなら、座して待っているほうがいい。やがて願いがかなうはずだ。
(デビッド・クラーク『マンガーの投資術 バークシャー・ハザウェイ副会長チャーリー・マンガーの珠玉の言葉 富の追求、ビジネス、処世について 』(日経BP社、2017年))
本ブログのメインテーマである転職について考えると、いつも転職のことを考えるのではなく、現職に集中するのは大事だということになります。
転職で成功するには今(現職)を大事にする | 転職キャリアルール (career-rule.com)
3 マルチタスクをしてはならない | 無能になりたいか
自分の今後のことを考えるとマルチタスクをするのは賢いこととは言えません
(1) マルチタスクができる人はいない(脳ができるようになっていない)
「私はマルチタスクが得意です」と豪語する人もいるかもしれません。
それはただの思い込みじゃないですかね。
科学者はずいぶん前から、マルチタスクが神話にすぎないことを知っている。どんな脳でも、集中を要する二つの目標を同時に追うことはできない。脳が複数の目標を追跡する唯一の方法は、タスクを切り替えることだ。科学者が測定するのは、その切り替えの速度だ。
ジョン・メディナ『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(東洋経済新報社、2020年3月)179ページ
「私はマルチタスクをしている」と思っている場合、そのマルチタスクは、複数の作業を順番に行ったり来たりしているだけです。
そのような行ったり来たりは生産性を下げるものだと数百年前も前からアダム・スミスによって指摘されているのは前述のとおりです。
(2) マルチタスクは脳の学び方に適合しておらず学習を阻害する
「ながら学習」は非効率な勉強方法です。
かけた時間に比して身につくものが少ない。
ながら学習で同時にあれこれすると(マルチタスクをすると)、シングルタスクの場合よりも多量の情報が脳に流れます。
しかし、脳は多量の情報を受け入れきれません。
最初の関門である短期記憶に収まりきらないのです。
短期記憶がその名の通り、非常に短い時間しかもたないことだ。脳のスケッチ帳は小さい。短期記憶の働きはいろいろな意味で狭い入り口になぞらえられる。大きいものは入らないし、たくさんの情報も入らない。
アーリック・ボーザー『Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』(英知出版、2018年7月)90ページ
こう考えると、例えば「ながら学習」が不可能な理由もわかる。音楽、車の運転、コンピュータブログラムはいずれも短期記憶を占拠するため、理解という頭の働きを妨げる。プレゼンの最中にちょっとした音楽が流れるだけでも内容が頭に入らなくなる。ある調査では、BGMなしでオンライン授業を受けた人は学習成果が150パーセント以上も上がった。
同上
「プレゼンの最中にちょっとした音楽が流れるだけ」でも、脳の学習能力は低下します。
「マルチタスク得意だから大丈夫」という人がいますが、勝手な思い込みです。
ほとんどの人は……短期記憶の容量を過大評価して、一度に多すぎる量を学習しようとするのだ。……例えば、友達と私語を交わしながらスピーチを聞いても内容はわかると考える(そんなことはできない)
同上・91ページ
こうした思い込みの強い人は、知らず知らずに悪しき習慣が続いて誤ったやり方が信念となり、他人より非効率なやり方に固執するようになります。
このことをうまく使いましょう。
マルチタスクを避け、今やっている作業に集中すれば、それだけ成果が上がりやすくなるのです。
ライバルに差をつけられます。
(3) マルチタスクはマインドワンダリングを生む不幸製造機
同時並行作業は、心ここにあらずの状態を作りだします。
目の前のことに意識が集中しておらず、別のことを考えている。
こうした心の状態は「マインド・ワンダリング」と呼ばれ、人を不幸な心地に陥れます。
不幸な人がマインド・ワンダリングをしがちなのではなく、マインド・ワンダリングをすると不幸な気持ちになるという因果関係があるのです。
なぜ目の前のことに集中せずにあれこれ考えると不幸せになるのか。
なぜかというと、「マインド・ワンダリング中に、私たちの意識が、過去や未来にいくため」です(友原章典『実践 幸福学 科学はいかに「幸せ」を証明するか (NHK出版新書 612)』(NHK出版、2020年1月)143ページ)。
ではなぜ意識が過去や未来に行くと不幸になるのか。
それは考えてもどうにもならない過去や未来を考えることでストレスが溜まるからです。
考えてもしょうがないことを常日頃考えて不機嫌な人はたくさんいます。
過去に悩む状態はこう。
みなさんもよく、昔の出来事を思い出してクヨクヨすることはないでしょうか。これは、すでに存在しないもの、つまり、記憶が生み出した妄想に悩んでいる状態です。
(友原章典・同上)
未来に悩む状態はこう。
将来を心配して不安になることもあるでしょう。明日、○○したらどうしようとソワソワしてしまうことです。これは、まだ起こってもいないことを妄想し、勝手に悩んでいる状態です。
(友原章典・同上)
このようにマルチタスクは自分を痛めつけます。
マルチタスクをするとマインド・ワンダリングが始まる
▼
現在に集中できない
▼
過去、未来を考える
▼
ストレスが溜まる
自分を心理的にムチ打つ連鎖です。
また、このマインド・ワンダリングは、大量のエネルギーを消費し、脳を疲れさせ、疲労感を生じさせます。
成人男性の脳は、体重の約2%しか占めていないにもかかわらず、体が消費するエネルギーのうちの約20%を消費します。脳は大食いなのです。また、不思議な話ですが、ぼんやりしている時の脳の活動は、意識的に作業をしている時の脳よりも、20倍近いエネルギーを消費しています。こうして脳は疲れ、脳の疲れが、私たちに疲労感を感じさせます。
(友原章典『実践 幸福学 科学はいかに「幸せ」を証明するか (NHK出版新書 612)』(NHK出版、2020年1月)147ページ)
転職活動は、今の仕事を続けながら、自分のこれまでを振り返り、かつ将来を考える活動です。
日々の仕事の最中にあれこれ転職のことを考えてしまいます。
これは心理的に実は大変なことなのです。
4 マルチタスクの一原因 | 頻繁なスマホチェックはやめるべきだ
本ブログは転職に前向きなのですが、本記事は転職に慎重な内容になりました。
転職活動はそれ自体効率性が悪いところが多々ありますが、いいことも当然あります。たとえば、職場の人間関係のリセットとか。
それはさておいて、本記事のまとめとして、現代で働く人向けのアドバイス。
現代人にできるマルチタスク防止のための身近で最適な行為は、スマホの閲覧回数を減らし、それ以外にやるべきことを集中することでしょう。
自分のスマホ閲覧時間のうち、本当に重要なものはそのうち何分あったか考えるべきです。
私は、ほぼゼロ分です。
無駄なスマホ閲覧時間それ自体が大いなる時間の無駄で、その他にかける時間を奪っています。
また、スマホをボーっと見ながら何かをやることは、知らぬ間に自分を不幸人間に仕立て上げる行為にもなっています。
なぜそう言えるのか。
スマートフォンはマインド・ワンダリングを助長するからです。
常にスマートフォンを見ていると、心がさまよいやすくなります。いろいろな情報が飛び込んできて、反応してしまうからです。
(友原章典『実践 幸福学 科学はいかに「幸せ」を証明するか (NHK出版新書 612)』(NHK出版、2020年1月)145ページ)
スマホを頻繁に見ることは、自分でも気がつかないうちに効率性を下げ、心理的ストレスを自分に与えていることになります。
目の前のことに集中することによって、自分にとっての成功に近づけます。
コメント